Buxeuil / ビュクセイユ

ビュクセイユは、シャブリと同じキンメリジャン石灰岩の大地に育つピノ・ノワールの村。コート・デ・バールのオートル・クリュながら、アルバンヌやピノ・ブランなど今やシャンパーニュ全土でも数えるほどしか残らない希少品種を複数の生産者が今も守り続ける、唯一無二の「生きた品種標本」だ。バイオダイナミック農法の革新的造り手たちが注目を集め、世界のナチュラル・シャンパン愛好家がこの小さな村に目を向けている。

基本情報

地域圏(Région)Grand Est
県(Département)Aube
区(Arrondissement)Troyes
郵便番号 : 10110
面積 : 4.43 km2
隣接するクリュ(Coomune)
Balnot-sur-Laignes, Neuville-sur-Seine, Polisy, Celles-sur-Ource,

「Buxeuil」のぶどう畑

テロワールCôte des Bar
- Barséquanais
格付け80% Autre Cru [?]
栽培面積135.6 ha
- Chardonnay20.6 ha (15.2%)
- Pinot Noir107.4 ha (79.2%)
- Pinot Meunier2.2 ha (1.6%)
- その他5.4 ha (4%)

特徴

栽培面積の約79%をピノ・ノワールが占めるビュクセイユのシャンパンは、チェリーやブラックベリーを想わせる赤系果実の香りに、キンメリジャン土壌ならではの砂岩・白チョーク的なミネラルのニュアンスが重なるのが特徴。コート・デ・ブランの白亜土壌が生む繊細なクリーミーさとは一線を画し、より骨太でダイレクトな味わいだ。 しかしビュクセイユが真に際立つのは希少品種のキュヴェ。ムタールの「Cuvée des 6 Cépages」はアルバンヌ・ピノ・ブラン・プティ・メリエを含む6品種ブレンドで、どの教科書にも載らない複雑な香りを持つ。ヴァンサン・クーシュのバイオダイナミック・キュヴェは無硫黄・無ろ過で、土壌の声をそのままグラスに注いだような生命感がある。食中酒として合わせるなら、鴨のコンフィや熟成チーズのように深みのある料理が好相性。普段のシャンパンとは違う「大地の個性」を探している飲み手に、強く推したい村だ。

テロワール

ビュクセイユの畑を支えるのは、シャブリやサンセールと同じジュラ紀後期(約1億5000万年前)のキンメリジャン層——石灰岩と粘土が交互に積み重なった地層だ。北部シャンパーニュの純白亜土壌とは根本的に異なり、より重厚で保水性の高い土壌は、ブドウに骨格のある果実味とくっきりしたミネラル感を与える。 地形的には、セーヌ川が村を南北に貫き、標高160〜312 mの緩やかな起伏が続く。主要区画は村の東側に集中し、隣接するポリジー・ヌービル=シュル=セーヌの畑と地続きになっている。東向きから南東向きの斜面が卓越し、ピノ・ノワールの成熟に必要な日照を安定して確保できる。 気候は大陸性の色合いが強く、年間平均気温10.3℃、年間降水量813 mm。冬の冷え込みは厳しく(平均1.5℃)、秋から冬にかけて霧が盆地に溜まりやすい。この長い寒冷期がブドウの酸味を保ち、収穫期には果実の凝縮感を高める。北部シャンパーニュに比べ日射量がわずかに多い一方で、大陸性気候由来の寒暖差が酸とリパートの均衡を生み出す——この気候とキンメリジャン土壌の組み合わせが、ビュクセイユのピノ・ノワールに他地区では得難い野性的な深みを刻む。

詳細

ビュクセイユは、フランス北東部・グラン・エスト地域圏オーブ県に位置する人口109人(2023年)の小村。コート・デ・バール広域テロワールの中でも、セーヌ川流域の「バルセカネ(Barséquanais)」地区に分類される。行政的にはトロワ郡バル=シュル=セーヌ区に属し、コミューン総面積は4.43 km²。村の南から北へセーヌ川が流れ、いわゆる「セーヌ渓谷(Vallée de la Seine)」の一角をなす。北・北西にポリジー、北東にセル=シュル=ウルス、南にヌービル=シュル=セーヌ、南西にバルノ=シュル=レーニュが隣接し、各村の畑は東斜面上で境界なく連続している。

テロワールの核心はジュラ紀後期(キンメリジャン期)の石灰岩と粘土の互層土壌。シャブリ(シャルドネの聖地)やロワールのサンセールと同じ地層がこの地でも露出しており、ブドウ根が深く伸びることでミネラル分を豊富に吸収する。北部シャンパーニュ(ランス周辺)を覆う純粋な白亜(ベロニアン・チョーク)とは組成が異なり、保水性・重厚感がやや高い。標高は最低160 m〜最高312 mで、主要区画は村東側の緩斜面に集中。東〜南東向きの日当たりが良い斜面にピノ・ノワールが広がる。気候は大陸性の影響が強く、年間平均気温10.3℃、年間降水量813 mm。冬の平均気温は1.5℃と厳しく、秋冬は霧が発生しやすいため、ブドウは長い休眠を経て酸味を保ったまま成熟する。

ムタール(Moutard-Diligent)はビュクセイユを代表するネゴシアン・マニピュラン(NM)。自社畑22 ha、年産約42万本を誇り、村内外に幅広い販売網を持つ。最大の看板は1952年植樹のアルバンヌ古木を含む6品種ブレンド「Cuvée des 6 Cépages」——アルバンヌ、ピノ・ブラン、プティ・メリエ、シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・グリを一本のキュヴェに統合した、シャンパーニュでも極めて珍しい存在だ。リュー・ディ「シャン・ペルサン(Champ Persin)」のシャルドネ単一畑キュヴェや、ソレラ方式を取り入れた「Cuvée des 2 Soeurs」など、テロワール表現への意識が高いラインナップを揃える。

ヴァンサン・クーシュ(Vincent Couche)は自社畑13 ha(モンゴー3 ha+ビュクセイユ10 ha)のレコルタン・マニピュラン(RM)。1998年にバイオダイナミック農法へ転換し、2008年にはデメーター認証を取得。2002年よりオーク樽発酵を部分導入し、2008年からは亜硫酸無添加キュヴェ「Chloé」を生産するなど、自然派シャンパンの先駆者として国際的な評価を確立している。ヴィニョロン・アンデパンダンの会員でもある。

  • グルエ(Gruet)(NM): 14.5 ha。アルバンヌ・ピノ・ブラン・シャルドネを組み合わせた「Cuvée des 3 Blancs」など希少品種キュヴェに特化したラインナップ。
  • ルブロン・ルノワール(Noël Leblond-Lenoir)(RM): 13 ha。リュー・ディ「フリオン(Frion)」産100%シャルドネ「Sublime de Frion」、リュー・ディ「ディゼ(Dizet)」産100%ピノ・ブラン「Perle de Dizet」など単一品種・単一畑へのこだわりが際立つ。
  • パスカル・ルブロン・ルノワール(RM): 10 ha。「Désir de Matthieu」(100% ピノ・ブラン)を擁し、ピノ・ブランの比率が高いキュヴェ構成が特徴。
  • アンドレ・ディリジャン(RM): 10 ha。ビュクセイユ、ポリジー、ジェ=シュル=セーヌ、バルノ、レ・リセに畑を持ち、ピノ・ブランを含む珍しいブラン・ド・ブランを手がける。
  • ヴェット・エ・ソルベ(Vouette & Sorbée)(RM): ベルトラン・ゴトロ主宰。1998年よりバイオダイナミック農法を実践し、「Fidèle」(100% ピノ・ノワール)、「Blanc d'Argile」(100% シャルドネ)、ロゼ「Saignée de Sorbée」がナチュラル・シャンパンの国際的指標として高い評価を受ける。
  • ヌービル=シュル=セーヌ・ビュクセイユ醸造組合(CM): ヌービル=シュル=セーヌに拠点を置き、自社ブランド「Clérambault」でビュクセイユ産ブドウを使ったシャンパンを供給。

村名はラテン語に由来し、「ツゲ(buxus=セイヨウツゲ)の木の野(ielas=野原)」を意味するとされる。古代にはケルト系部族が定住しており、村のシンボルであるサン=ルー教会(Église Saint-Loup)は13〜16世紀にかけて建造された。村人はかつて「薪の狼(les loups de bûches)」と称されてきた。

シャンパーニュの歴史においてビュクセイユが重要な転換点と交わるのが、1911年のシャンパーニュ農民蜂起(Champagne Riots)だ。コート・デ・バールの生産者たちが「シャンパーニュ」名称の使用をめぐって蜂起したこの出来事を経て、AOCシャンパーニュの地理的境界が確定し、ビュクセイユを含むオーブ県の村々が正式に産地として認定された。ムタール家の先代イアサント・ディリジャン(Hyacinthe Diligent)は1927年にシャンパン生産と蒸留を開始。1960年にリュシアン・ムタールとジョゼット・ディリジャンの家族結合により「ムタール・ディリジャン」が発足し、現在のムタールの礎を築いた。総栽培面積は1997年の101 haから現在の135 haへと着実に拡大しており、後継世代の参入とナチュラル・シャンパンへの世界的関心の高まりが、この小さな村を再び表舞台へと押し上げている。

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