Avenay-Val-d’Or / アヴネ=ヴァル=ドール

アヴネ=ヴァル=ドールは、かつて「アイは名声、マレイユは美酒、アヴネイはそれ以上」と謳われた17世紀の格言が残るプルミエ・クリュ(格付け93%)の村。栽培面積236haのうち実に約78%をピノ・ノワールが占め、南向き斜面からしか生まれない凝縮感のある赤系果実の風味は、今もシャンパン愛好家を静かに魅了し続けている。

基本情報

地域圏(Région)Grand Est
県(Département)Marne
区(Arrondissement)Épernay
郵便番号 : 51160
面積 : 12.49 km2
隣接するクリュ(Coomune)
Mutigny, Fontaine-sur-Ay, Germaine, Aÿ-Champagne,

「Avenay-Val-d’Or」のぶどう畑

テロワールVallée de la Marne
- Grande Vallée de Marne
格付け93% Premier Cru [?]
栽培面積236.3 ha
- Chardonnay28.5 ha (12.1%)
- Pinot Noir183.2 ha (77.5%)
- Pinot Meunier23.6 ha (10%)
- その他1 ha (0.4%)

特徴

アヴネ=ヴァル=ドールのシャンパンは、ピノ・ノワール主体(約78%)ならではのダークチェリーやプラムを思わせる果実感に、チョーク由来のしっかりした骨格が加わるのが特徴だ。隣のアイ=シャンパーニュのような華やかな爆発力よりも、少し内向きで熟成とともにじわりと開くタイプが多く、ブランド志向ではなく造り手の個性を楽しむ飲み手に刺さる。バイオダイナミック農法の先駆けでもあるオーギュスタンや、PN90%で骨太なキュヴェを展開するウィリアム・サントなど個性派グロワーが揃い、肉料理やジビエとのペアリングにも応えるコクと余韻を持つ。「名前よりも中身」を求めるシャンパン中級者が次に探すべき村として、静かに評価を高めている。

テロワール

アヴネ=ヴァル=ドールのぶどう畑は、グランド・ヴァレ・ド・ラ・マルヌに属し、アイ=シャンパーニュの北西にあたる斜面に展開する。主軸は南向きの傾斜地で、日照と排熱の面で有利な条件を持つ一方、地形の起伏により一部東向きや比較的平坦な区画も混在するため、畑ごとに熟度や果実の性格が微妙に異なる。 東隣のアイ=シャンパーニュや南のマルイユ=シュル=アイと同じくベルムニアン系白亜層(チョーク)を基盤とするが、アヴネ=ヴァル=ドールは斜面の標高変化が比較的大きく、上部区画では石灰質粘土の比率がやや高まる傾向がある。これがアイに比べてやや骨格を内側に抑えた、落ち着いた構造のピノ・ノワールを生む素地となっている。西隣のミュティニーとの境界近くに位置するレイル・ノエやラ・コート・ド・シニョンなどの南向きリュー=ディは、緩やかな傾斜と白亜の保温効果が相まって、果実の充実感と酸の均整が際立つ区画として生産者に重用されている。チョーク質土壌の水はけの良さと毛細管現象による水分保持は、乾燥年でもピノ・ノワールに安定した果実味をもたらし、それがこの村のシャンパンに一貫したボリューム感を与えている。

詳細

アヴネ=ヴァル=ドールは、アイ=シャンパーニュの北西約3kmに位置するプルミエ・クリュのコミューンでグランド・ヴァレ・ド・ラ・マルヌの上部斜面に広がる。村はしばしば単に「アヴネイ(Avenay)」とも呼ばれ、コミューン面積1,249ha、人口約988人(2015年)。南のマルイユ=シュル=アイ(プルミエ・クリュ)、西のミュティニー(プルミエ・クリュ)、北北西のジェルメンヌ、北北東のフォンテーヌ=シュル=アイに囲まれ、グランド・ヴァレの中でもアイ=シャンパーニュとその周辺プルミエ・クリュ群をつなぐ位置にある。アイからマレイユ経由で村を通る鉄道が丘上へ続き、かつては物流の要所でもあった。

ぶどう畑の大部分は南向きの斜面に集中し、チョーク(白亜)質土壌が基盤を形成する。地形の変化により東向きや比較的平坦な区画も混在しており、ミュティニーとの境界近くのレイル・ノエ、ル・シャン・エラール、ラ・コート・ド・シニョン、ラ・コート・デ・ペルシュ、レ・パントネイといった南向きの緩斜面リュー=ディが生産者に重視されている。一方、村北西のプロールは比較的平坦でシャルドネが栽培され、村南のソランジュ=ウェストはマルイユ=シュル=アイ境界沿いの平坦区画にあたる。南向き斜面の白亜土壌は排水性と水分保持を両立し、乾燥年でも安定した果実熟度を確保する。

アヴネ=ヴァル=ドールには独立した大手メゾンは本拠を置かないが、G. H. Mummペリエ・ジュエが村内に施設を構えるほか、ボランジェアンリオモエ・エ・シャンドンフィリポナヴーヴ・クリコといった主要メゾンが村内に畑を所有している。主役はグロワー(栽培農家兼醸造者)であり、個性的な少量生産者が揃う。

オーギュスタン(Augustin)(RM)は、マルク・オーギュスタンが率いるバイオダイナミック農法の生産者。アヴネ=ヴァル=ドールに6ha、ヴェルテュに3haの計9haを管理し、2012年より有機農法、2013年よりバイオダイナミック農法に移行、2015年にDemeter認証を取得。キュヴェにはローマ数字と錬金術の四元素(火・水・土・風)を冠し、年産約10,000本と小規模ながら哲学的なアプローチで際立つ存在だ。

ウィリアム・サント(William Saintot)(RM)は、ヴィニュロン・ザンデパンダン加盟の生産者。10.27haの畑はピノ・ノワール90%という構成で、年産25,000本。ル・シャン・エラールやラ・コート・ド・シニョンといった主要リュー=ディで単一区画のキュヴェを展開し、ビスイユのバルモン区画産シャルドネ100%「セデュクシオン」もラインナップする。

  • Gabriel Pagin Fils(RM):Vignerons Indépendants加盟。アヴネ=ヴァル=ドール・ミュティニー・アヴィーズクラマンに9.5ha(PN80%/Ch18%/PM2%)を所有。ヴィンテージ「キュヴェ・ロジェ・ガブリエル」はシャルドネ100%のブラン・ド・ブラン。
  • Hubert Billiard(RM):Vignerons Indépendants加盟。ミュティニー・アヴネ=ヴァル=ドール・アンボネイに4.3ha(PN50%/PM40%/Ch10%)。トップキュヴェ「ル・ゴロワ」はPN60%/Ch40%の一部樽発酵仕立て。
  • イヴ・ルファン(Yves Ruffin)(RM):1971年から有機認証を取得する老舗グロワー。アヴネ=ヴァル=ドール、トキシエール=ミュトリーに3ha(Ch60%/PN40%)を所有し、「キュヴェ・プレシューズ」(Ch75%/PN25%)と「キュヴェ・ティエリ・リュファン」(Ch80%/PN20%)の2本のヴィンテージキュヴェを展開。
  • ピエール・モレ(Pierre Morlet)(NM):アヴネ=ヴァル=ドール、アイ、ビスイユ、ミュティニーに約16haの畑(PN76%/Ch24%)を持つネゴシアン。構成比率が年ごとに変化するヴィンテージキュヴェを展開。
  • J. C. R(RM):旧名リッチュティ=レヴォルト。アヴネ=ヴァル=ドール・キュイ・マルイユ=シュル=アイ・ミュティニーに畑を所有(PN90%/Ch10%)。ヴィンテージ「バイ・JCR」はクイイの古樹シャルドネ100%ブラン・ド・ブランで知られる。

アヴネ=ヴァル=ドールの歴史は、17世紀のフランスの文人・快楽主義者シャルル・ド・サン=テヴルモンの言葉に刻まれている。1661年にバスティーユへの収監を逃れてイギリスへ亡命した彼が、この村のワインを称賛した記録が残っており、当時は発泡酒(シャンパン)ではなく静止ワインの産地として名高かった。格言「Aÿ le nom, Mareuil le bon, Avenay passe avant(アイは名声、マレイユは美酒、アヴネイはそれ以上)」は、いかにこの村のワインが当時の美食家に重んじられていたかを物語る。発泡ワインへの転換後も醸造の伝統は受け継がれ、現在は174の生産者がプルミエ・クリュの畑を守り続けている。

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