「バトナージュ」とは

Bâtonnage / バトナージュ

バトナージュ(Bâtonnage)とは、発酵後にタンクや樽の底に沈殿した澱(おり)をかき混ぜる醸造技術のことだ。フランス語で「棒」を意味する「bâton(バトン)」に由来し、もともとは細長い棒状の道具を樽の栓穴から差し込んで澱を攪拌する作業から名づけられた。「澱引き前の接触熟成」を意味する「シュール・リー(sur lie)」と組み合わせて語られることが多い。 ■ 澱と何が起きているのか 発酵を終えた酵母は死滅し、容器の底に沈んでいく。この沈殿物が澱(リー)だ。澱をそのまま放置しても熟成は進むが、バトナージュによって攪拌することで、酵母の自己融解(オートリシス)が促進される。この過程でマンノプロテインやポリサッカライドといった成分がワインに溶け出し、テクスチャーにクリーミーさと厚みをもたらす。また、酵母由来の硫化水素(腐卵臭の原因)を除去する効果もあり、衛生管理の観点からも意味を持つ。ただし、かき混ぜすぎると酸化リスクや鮮度の低下につながるため、頻度とタイミングの判断はつくり手の経験に委ねられる。 ブルゴーニュの白ワイン、とりわけシャルドネの樽熟成において発展した手法だが、現在ではニュージーランドやカリフォルニアなど世界各地のワイナリーにも広まっている。 ■ シャンパーニュとバトナージュ シャンパーニュにおいては、バトナージュは瓶内二次発酵とは別の文脈で登場する。一般的なシャンパーニュの澱との接触は瓶の中で起きるが、一部のメゾンやレコルタン・マニピュランは、ベースワイン(アッサンブラージュ前の原酒)を樽やタンクで熟成させる段階にバトナージュを取り入れている。これによってベースワイン自体に深みとテクスチャーが加わり、泡立ちを経た最終的なシャンパーニュの骨格や複雑さに影響を与える。 シャルドネ主体のブラン・ド・ブランや、樽発酵スタイルのキュヴェでこの手法が採用されることが多く、パン・ブリオッシュのような焼き菓子のニュアンスや、ふくよかな口当たりを生み出すひとつの要因となっている。 バトナージュは劇的な香味を足す魔法ではなく、地道な積み重ねによってワインの土台を整える作業だ。その効果はグラスの中に静かに、しかし確かに現れる。

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