「ロゼ・デ・リセイ」とは

Rosé des Riceys / ロゼ・デ・リセイ

シャンパーニュといえば、世界中の人が泡立つ白や淡いロゼを思い浮かべる。ところがこの産地には、スパークリングではなくスティルワイン(非発泡性ワイン)のロゼだけを対象としたAOCが存在する。それが「ロゼ・デ・リセイRosé des Riceys)」だ。 ■ レ・リセイという特別な村 ロゼ・デ・リセイが生まれるのは、シャンパーニュ最南端のオーブ県に位置するレ・リセイ(Les Riceys)。シャンパーニュ全体の中でも最大の栽培面積(866ヘクタール)を誇るコミューンでありながら、知名度は決して高くない。 この村はフランスで唯一、AOCシャンパーニュ、AOCコトー・シャンプノワ(シャンパーニュ産地の非発泡スティルワイン)、そしてAOCロゼ・デ・リセイという三つのアペラシオン(原産地呼称)を持つ地区だ。三AOCを抱える村は他に存在せず、その点だけでも十分に異色の存在といえる。 テロワール(土壌・気候・地形の組み合わせ)の特徴は、キンメリジャン石灰岩の下層土と、急勾配のU字形の谷が連なる地形にある。この起伏に富んだ地形が、ピノ・ノワールに厚みのある果実味をもたらす。 ■ 造り方と「グー・デ・リセイ」 ロゼ・デ・リセイはピノ・ノワール100%で造られるスティルロゼワインだ。ブドウは全房(茎ごと)で醸造タンクへ入れ、「セミ・カルボニック・マセラシオン」と呼ばれる半炭酸ガス浸漬法で仕込まれる。この技法は本来、ボジョレー・ヌーヴォーのような軽快なワインに使われることで知られているが、リセイではタンニン(渋み成分)を過度に抽出しない範囲で色素と風味を引き出すために用いられる。 マセラシオン(果皮浸漬)の期間は3〜6日間。南フランスのロゼが数時間程度の浸漬で仕上げるのに対し、リセイのそれは長く、果実の風味と色調がより深く抽出される。 こうして生まれるワインには「グー・デ・リセイ(goût des Riceys)」と呼ばれる独自の風味がある。ドライハーブやヘーゼルナッツのニュアンス、わずかな酸化のトーンが特徴で、フィノ・シェリーを連想させるという評も存在する。赤いベリー類の香りを軸に、スパイスや土のニュアンスが絡む複雑な味わいは、一般的なプロヴァンスロゼとは明らかに異なる。 ■ 希少性と歴史的背景 ロゼ・デ・リセイが生産されるのは例外的なヴィンテージのみで、年間生産量はおよそ7万本。収穫時にポテンシャル・アルコール度数が10度以上に達していることが条件とされており、これはシャンパーニュの基準よりも厳しい。出来の悪い年にはそもそも生産されないため、手に入ること自体が難しい。 AOCとしての認定は1947年。フィロキセラ(ブドウ根アブラムシ)による壊滅的被害から産地が立ち直り、数少ない生産者が命脈を保ってきたことへの報酬として与えられた。 ヴェルサイユ宮殿の建設に携わったリセイ出身の職人たちが宮廷にこのロゼを持ち込み、ルイ14世の気に入りとなったという伝説も残る。真偽のほどは別として、この地のワインが長い歴史のなかで一定の評価を得てきたことは確かだ。 ■ シャンパーニュ愛好家にとっての意味 シャンパーニュに興味を持ち始めた人が、あるとき「泡なしのロゼもある」と知ると、多くの場合に驚く。ロゼ・デ・リセイはシャンパーニュという産地の多面性を象徴するワインであり、スパークリングワインの枠を超えてこの地の土壌とブドウの個性を直接感じ取れる数少ない機会でもある。 熟成ポテンシャルも見逃せない。若いうちはフレッシュな赤果実の風味が主体だが、時間をかけることでスパイスや複雑なニュアンスが増し、まったく異なる表情を見せる。食事との相性も広く、鴨料理や豚の煮込み、あるいは軽めの赤ワインが合うような料理に寄り添う。 泡のないシャンパーニュを試してみたいと思ったら、ロゼ・デ・リセイはその最良の入口のひとつだ。

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