「ピノ・ノワール」とは

Pinot Noir / ピノ・ノワール

ワイン界屈指の「気難しや」にして、最も感動的なワインを生む品種。ピノ・ノワールはブルゴーニュを故郷とする黒ブドウで、その名の通り青みがかった黒い果皮と、松の実を思わせるこんもりとした小さな房が特徴的。イタリアでは ピノ・ネロ(Pinot Nero)、ドイツではシュペートブルグンダー(Spatburgunder)の名で知られ、学名ではヴィティス・ヴィニフェラと呼ばれるヨーロッパ系の葡萄品種のひとつです。 農業的な特性として、果皮が薄く繊細なため、湿気や灰色カビ病(ボトリティス)に弱く、栽培には細心の注意が要ります。早熟な傾向があり、春の霜と秋の早い雨の両方に脅かされます。収量コントロールが品質に直結するため、大量生産には向かない品種です。一方で、栽培地の「個性=テロワール」を敏感に反映する能力は他の品種の追随を許さず、同じ村の中でも畑によって全く異なる表情を見せます。 果汁の色はほぼ無色で、果皮との接触(マセラシオン)によって色素が溶け出します。そのため、他の黒ブドウに比べてワインの色は比較的淡く、ルビーやガーネット寄りです。香りはイチゴ、チェリー、ラズベリーなど赤系果実が典型的ですが、熟成が進むと革、土、きのこ、スパイス、さらにはトリュフの香りへと変化します。タンニンは細かく絹のような質感で、酸はしっかりしています。ブルゴーニュのジュヴレ・シャンベルタンやポマールでは濃厚で力強いスタイルが、ヴォルネイやシャンボール・ミュジニーでは繊細でエレガントなスタイルが代表的です。 ブルゴーニュ以外では、アメリカのオレゴン州(ウィラメット・ヴァレー)やカリフォルニアのソノマ、ニュージーランドのセントラル・オタゴ、ドイツ(シュペートブルグンダーの名で知られる)なども優れた産地として確立しています。オレゴンは果実の透明感とエレガンスでブルゴーニュと並び称されることもあります。 シャンパーニュにおけるピノ・ノワールの歴史は中世にまで遡り、14世紀の記録にもその名が見えるほどです。現在、シャンパーニュ全体の栽培面積の約38%を占め、3大品種の中では最も広く植えられています。主要な産地はモンターニュ・ド・ランス(ランス山地)とコート・デ・バール(南のオーブ地区)です。モンターニュ・ド・ランスでは、アンボネイ、ブージィ、ヴェルズネイといったグラン・クリュ(シャンパーニュの格付けで最高位)の村が連なり、骨格がしっかりした果実味の豊かなシャンパーニュを生みます。 ブレンドにおいてピノ・ノワールは「構造と骨格」を提供します。ワインに深みと長命性を与え、熟成ポテンシャルを高める働きをします。シャルドネの酸や繊細さを引き立てつつ、ピノ・ムニエの丸みと融合して、ノンヴィンテージ・シャンパーニュの「安定した骨格」を支えています。 黒ブドウだけで造る白シャンパーニュ「ブラン・ド・ノワール」では、ピノ・ノワールが主役を張ります。果皮を長く接触させずに素早く搾ることで、黒ブドウでも白いワインができます。ボランジェの「ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ」は、フィロキセラ(根を食い荒らす害虫)の被害を免れた樹齢100年超の古木(フィロキセラ前の台木)から造られる稀有なブラン・ド・ノワールで、圧倒的な複雑さと深みを持ちます。また、クリュッグはモンターニュ・ド・ランスのブドウを軸にピノ・ノワール主体のリッチなアッサンブラージュ(複数品種・複数年のブレンド)を得意とし、その哲学的ともいえるブレンド技術で世界中の愛好家を魅了しています。

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