「マサル・セレクション」とは

Sélection massale / マサル・セレクション

「マサル・セレクション」は、新しく畑を植え替える際に、単一のクローン苗を使うのではなく、既存の古い畑から生育の良い複数の樹を選び、その挿し木や接ぎ木から次世代の苗木を育てる伝統的な増殖方法です。「マサル(massale)」は「集団の」という意味で、遺伝的に均一なクローン選抜とは対照的な発想に立ちます。同じ畑の中でも樹によって房のつき方や成熟のタイミング、耐病性にはばらつきがあり、そのばらつきをあえて残すことで、単一クローンでは失われがちな遺伝的多様性や、その土地に長年適応してきた個性を次の世代に引き継げると考えられています。 ワイン界全体では、20世紀後半に病害対策や収量の安定を目的としたクローン選抜が急速に普及し、多くの産地でマサル・セレクションは一時下火になりました。しかし近年は、ヴィエイユ・ヴィーニュ(古樹)の価値が見直される流れと並行して、複雑味やテロワールの表現力を重視する造り手を中心に再評価が進んでいます。 シャンパーニュ産地では、19世紀末のフィロキセラ禍で畑がほぼ壊滅し、その後の植え替えでは接ぎ木とクローン選抜による均一な畑づくりが長らく主流でした。収量と品質の安定を最優先する大手メゾン(NM)にとって、クローン苗は管理のしやすさという点で理にかなっていたためです。一方で、自園のブドウにこだわるヴィニュロン・アンデパンダンや、ビオディナミを実践する生産者を中心に、自分の畑の古樹からマサル・セレクションで苗を育てる動きが近年広がっています。手間とコストはかかるものの、単一クローンにはない複雑さや、その区画(リュー・ディやクロ、モノポール単位で語られることも多い)ならではの個性を表現したいという狙いがあり、シャンパーニュにおける「造り手の個性」を語る際の一つの切り口としても注目されています。

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